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第42話 雨宿りの一皿

last update publish date: 2026-09-11 23:26:38

《その偽物のアカウントを、今すぐ削除して》

「まだ何も投稿していないのに……」

 糀は登録したばかりの画面を煌へ見せた。

 澄乃糀という名前は、今ここで決めた。久我原にも、まだ伝えていない。

「美咲さんへ、この名前を話してはいません」

「私も話していません」

 煌はすぐには答えなかった。

 いつもなら迷わず答える人が、今は黙って考え込んでいる。

 眉を寄せ、店内をゆっくりと見渡す。カウンター、棚、厨房の奥。何かを探すような目だった。

 糀もつられて見回したが、見慣れた三席と厨房に変わったものはない。

「神楽坂さん?」

「……まだ、何とも言えません」

「消したほうがいいでしょうか」

「あなたが決めた名前です。消す理由はありません」

 糀はもう一度、届いた言葉を読んだ。

 美咲に偽物と呼ばれたからといって、自分で選んだ名前を手放したくない。

「消さないことにします」

「ええ」

 煌は帰るまで、何度か厨房の奥へ目を向けていた。

 何も投稿していないアカウントを、どうして美咲が知っていたのか。その答えは出ないまま、煌と秘書は帰っていった。

***

 
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